先週、タイクリップ(ネクタイピン)のレビューをしました。
最初はレビューだけのつもりでしたが、記事を書くうちに、ネクタイピン/タイクリップに関する疑問や、使い方について整理したいことが結構出てきてしまいました。
そこで今回は、ネクタイピンについてまとめたいと思います。
なお、書き出してみたらかなりの量になってしまったので、前編の今回は用語の定義や種類の話題を中心に、使い方や選び方については、次回後編として考えてみようと思います。
1.「ネクタイピン」の呼称問題
この写真の道具、皆さんは何と呼んでいますか?
地域差があるかも知れませんが、一番多い呼称は「ネクタイピン」でしょう。英語風に書くと”Neck tie pin”。
実際、”tiepin”という単語は存在するようですが、pinは本来「釘」「針」の意味。tiepinについて少し調べると、原義ではスカーフやアスコットタイを固定するためのスカーフピン(大きなまち針の様なピンから、安全ピン型まで、様々有ります)を指すようです。
従って、ネクタイ留めを総称する英語表現は「タイクラスプ (tie clasp;タイを留めるもの、の意)」が正確なようです。
とはいえ、和製英語における「ネクタイピン(Necktie-pin)」は、そのままネクタイ留めとして国内で広く使われていますので、そこまで目くじらを立てる必要は無いと思います。また、ネクタイ留めを総称するその他の和製英語に「タイホルダー(Tie-holder)」があります。
2.タイクリップ? タイバー? ネクタイ留めの分類
しかし、他にもタイバーや、タイクリップなど、複数のネクタイ留めに関する表現を見かけることがあります。
これらを分類してみようと思います。
① タイクリップ (tie clip)
もっともオーソドックスなタイプのネクタイ留めでしょう。
2つの金属棒を蝶番(ちょうつがい)で繋ぎ、さらにバネの力を使って、大剣・小剣・シャツを挟めるようにしたものです。
ビジネスの場で最も使いやすく、汎用性も高いため、本稿ではタイクリップを中心に記載しています。
② タイバー (tie bar)
バネを使わず、金属の弾力だけでネクタイを留めます。
タイクリップに比べると使いづらいですが、そのシンプルな見た目はビジネスユースに良く合います。
また、タイクリップに次いでポピュラーです。多く出回っていることもあり、別に項目を設けてタイクリップとの違いを考えてみようと思います。
③ タイピン (tiepin)
本来はスカーフを固定するものでしたが、ネクタイを留める道具としても使われます。
日本では珍しいですが、海外の写真では礼服などで使われているのを見かけます。
とはいえ、タイに穴をあけてしまう上、ピンが衣服に引っかかることもあるため、また華美になりすぎることもあって、現在のビジネスユースではほとんど見かけません。
写真の出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Tiepin_moscow.jpg
④ タイタック (tie tack)
ネクタイが薄く、結んだだけでは綺麗に見えなかった時代、ネクタイを綺麗に見せるために使われていました。
そのため、ネクタイを動かないようにするというよりは、持ち上げることとブローチ的な装飾としての役割が主で、留める位置もタイクリップよりかなり上です。
前項のタイピンと同じく、海外の写真ではまだ見かけます(ただし、こちらもモーニングコートなどの、盛装とセットが多いです。)
日本では冠婚葬祭用として使われていましたが、ビジネスユースでの現役利用はあまり見かけません。
写真の出典:文化出版局編(1999)『ファッション辞典』文化出版局
⑤ タイチェーン (tie chain)
ドレッシーな雰囲気ですが、これも今では余り見かけません。古い写真(昭和30~40年代)でよく登場する印象があります。
タイチェーンの呼称は、日本での商品名と説明している文献もあります。
写真の出典:文化出版局編(1999)『ファッション辞典』文化出版局
現役はタイクリップとタイバー
こうしてみると、ビジネスユースに現役なのは「タイクリップ」と「タイバー」の2種類でしょう。続いて、この2つの違いを見ていきます。
3.タイクリップとタイバーの違いを比較する
① シンプルな見た目のタイバー
▲ 写真のタイバーは「TAVARAT 日本製 ネクタイピン」
タイバーは、先述の通り1つの金属棒から出来ています。そのため、余計な附属物の無い、かなり簡単な見た目の物が主流です。
したがって、装着したときの華美さを抑え、シンプルな着こなしをしたいときに便利なアクセサリーと言えます。
しかし一方で、挟むスペースが限定されているというデメリットもあります。このため、厚手のタイには食い込んで生地を傷めたり、薄手のタイでは挟めず落ちてしまったりするという、問題点があります。
② 取り付けやすく、タイに優しいタイクリップ
▲ 写真のタイクリップは「BizON シルバー925 ネクタイピン SVTB0029c」
一方でタイクリップは、シャツとタイをバネの力で挟みます。
比較的様々な厚さのタイに対応しおり、タイバーに比べ落下しづらく、扱いやすいです。また、自重を増やし易いので個性的な装飾が施される事もあります。
一方で、横から見たときにバネや取っ手が見えるなど、タイクリップほどのスッキリさは有りません。
③ おすすめはタイクリップ
ビジネス用途として、個人的なオススメはタイクリップです。
忙しい朝に装着しやすく、落としにくく、タイも傷めにくいためです。
また、最近では(前回の生地でご紹介したような)シンプルなタイクリップも多いため、選びやすくなったと思います。
4.ネクタイピンはスーツスタイルに必要?
前編の最後に、ネクタイピンって本当に必要なの? どういうときに使うべき? という点について考えてみたいと思います。
まずは、ネクタイピンの役割を整理してみます。
① 【見た目】タイにボリュームを持たせる
上の写真が、ネクタイピンを使っておらず、下が使った状態です。
かなり芯地のしっかりとしたタイを使っていますが、それでもネクタイピンが無いと元気がありませんよね。
少しやり過ぎ感はありますが、この様にタイを支えてあげるだけで、ずいぶんと華やかにみえます。さらに、タイによっては綺麗なドレープが出るので、高級感を強調できます。
②【見た目】アクセサリーとしてのネクタイピン
今回はあえてシンプルなモノしかご紹介していませんが、ネクタイピンはスーツスタイルに許された数少ない装飾品(アクセサリー)でもあります。
ビジネス用途に使えるかは見極めが重要ですが、動物、文房具、紋章、メッセージなど、様々なデザイン性の高いネクタイピンが存在します。
③ 【実用】タイを固定する
通常、三つ揃い(スリーピース)であればウェストコートが、ツーピースでも上着のボタンは通常閉じられているはずなので、タイはそこまでブラブラするものではありません。
しかし、上着を脱いだ際は別です。(上着を脱ぐことの是非は置いておくとして……)
食事の際、手洗いの際、タイが汚れてしまうことを防ぐツールとして、ネクタイピンは非常に重要です。
先日、ファミレスに入る機会があったのですが、男性従業員のネクタイピンの位置がかなり下にありました。
①のタイにボリュームを持たせるためには、タイの上から1/3程度で留める必要がありますが、上から4/5くらい、かなり下の位置で留められていました。
運ぶ食事に、タイが入ってしまわないような配慮――見た目では無く、実用面での使い方の良い例であると感じました。
ネクタイピンは必要?
個人的には、ネクタイを美しく見せる①の役割だけでもメリットは大きいと考え、毎日使っています。
もちろん、ネクタイピンを「古くさい」と感じる方がいるかもしれませんが、製品の選び方や留め方を工夫することで、使い勝手は向上すると思います。
詳しくは、次週取り上げたいと思います。
5.前編のおわりに
前編は、用語の定義、種類、ネクタイピンを使う意義について考えてみました。
次週の後編は、もう少しブレイクダウンした、ネクタイピンの使い方や選び方などについて取り上げてみたいと思います。
既に前回の記事のコメント欄で、皆さんからネクタイピンについてメッセージを戴いていますが(有り難う御座います)、使い方や選び方について、追加でオススメの方法がありましたら、ぜひコメントをお寄せ下さい。次回、皆様にご紹介したいと思います。